基礎知識

Disease Basics
診療案内

手足の筋萎縮や脱力は、筋萎縮性側索硬化症の可能性もありますので注意が必要です。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、手足、首、舌、呼吸に関連する筋肉など全身の筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく疾患です。筋肉そのものの病気ではなく、脊髄と脳の運動神経が変性して障害されることで生じます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などは障害されません。

初期症状で多いのは、主に手足の筋力低下や筋肉のやせ、話しにくさ、飲み込みにくさなどです。手足の筋力低下としては、物を落としやすくなる、箸が使いにくくなる、階段を上がりづらくなるといった症状がみられます。

いずれの場合でも、やがては呼吸に関連する筋肉を含めて全身の筋肉がやせて力がはいらなくなり、歩行困難で寝たきり状態になり、食べ物が呑み込めなくなり、声が出しにくくなります。


原因

ALSの原因は不明ですが、神経の老化との関連や興奮性アミノ酸の代謝異常、酸化ストレス、タンパク質の分解障害、あるいはミトコンドリアの機能異常などの様々な学説はありますが、結論はまだ出ていません。ALSは多くの場合は遺伝しませんが、ALS全体のおよそ10%は家族内で発症することといわれており、家族性ALSと呼ばれています。日本人の家族性ALSでは、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)という遺伝子に原因であり、全体の約2割を占めて最も多く、他には、FUS、VCP 、TARDBP、OPTNといった遺伝子が関連する症例もあります。


症状

ALSの発症様式には大きく3タイプがあります。

①肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮が生じます。このタイプはまず上肢の神経障害が見られ、手指が使いにくくなり、肘から先の力が弱くなることから始まり、その後徐々に下肢の神経の障害が起き、下肢の力が入りにくくなり、さらに嚥下障害(食べ物が飲み込めない)、構音障害(しゃべりにくい)、呼吸困難なども生じます。

②球型(進行性球麻痺):言語障害・嚥下障害など球症状が主体となります。
このタイプは話しづらい、食べ物が飲み込みにくいという症状から始まり、最終的には手足の筋肉、呼吸の筋肉も含めて全身の筋肉が障害され、手足の力が入らなくなり歩けなくなり、呼吸不全となります。

③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し下肢の腱反射低下、消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に生じます。
このタイプはどちらかの足の力が段々と弱くなり、反対側の足にも症状が拡大し、その後腕の筋力の低下や嚥下障害、構音障害、呼吸困難なども生じます。

いずれのタイプも全身の筋肉が数年ほどで低下し、寝たきり状態になります。また呼吸に関連する筋肉も障害され、呼吸がしづらくなり、進行すると呼吸不全になり最終的に人工呼吸器を使わないと延命できない状態となります。


ALSにあまりみられない症状

1. 眼球運動障害:眼球を動かす筋肉を支配する神経(動眼神経、滑車神経、外転神経)がALSでは障害されにくいためです。

2. 感覚障害:ALSは主に運動ニューロンを障害する疾患であるため、感覚神経は通常障害されません。

3. 膀胱直腸障害:膀胱や直腸を支配する自律神経は通常障害はされません。そのため、排尿や排便の機能は進行期まで保たれることが多いです。

4. 褥瘡:ALSが直接的に褥瘡を引き起こすわけではありませんが、全身の筋力低下による長期臥床で、褥瘡のリスクはあります。したがって褥瘡の予防は考慮しなければなりません。


検査

MRI
筋萎縮側索硬化症の診断を示唆する特異的な所見はありません。腫瘍、多発性硬化症、後縦靭帯骨化症、頚椎症になど他疾患の除外のため、頭部MRIや脊髄MRIを行います。

神経伝導検査
神経伝導検査は脱髄性ニューロパチーの除外のために行います。

針筋電図
針筋電図で下位運動ニューロン障害の所見を検出できます。

所見
① 進行性脱神経所見:線維性収縮電位、陽性鋭波など
② 慢性脱神経所見:長持続時間、多相性電位、高振幅の大運動単位電位など

血液検査
筋萎縮性側索硬化症でもCKがしばしば高値になるが正常値の10倍以上になるのは稀である。

髄液検査
筋萎縮性側索硬化症でも脳脊髄液蛋白上昇は認められるが100mg/dL以上になるのは稀である。


診断基準

以下の①~④の全てを満たすものをALSと診断できます。

①成人発症である。
②経過は進行性である。
③神経所見・検査所見で、下記の1か2のいずれかを満たす。

身体をa.脳神経領域、b.頸部・上肢領域、c.体幹領域(胸髄領域)、d.腰部・下肢領域の4領域に分けて考えます。

1.(1)1つ以上の領域に上位運動ニューロン徴候をみとめ、かつ2つ以上の領域に下位運動ニューロン徴候がある。
2.(2)SOD1遺伝子変異など既知の家族性筋萎縮性側索硬化症に関与する遺伝子異常があり、身体の1領域以上に上位及び下位運動ニューロン徴候がある。

・上位運動ニューロン徴候とは、脳幹(皮質延髄路)または脊髄(皮質脊髄路)に分布する運動皮質のニューロンの障害が起き、筋緊張亢進、腱反射亢進により筋肉が硬直してしまう症状がみられます。筋肉の硬直、巧緻運動障害(手指を使った細かい作業が難しくなる症状)、手足の運動のぎこちなさがみられます。

・下位運動ニューロン徴候とは、前角細胞または脳神経運動核あるいは骨格筋へと伸びるそれらの遠心性線維の障害が起き、筋緊張の低下、筋萎縮、腱反射の減弱が生じ、筋肉がやせてしまい、手足、顔面の筋力低下、嚥下困難、構音障害がみられます。また、線維束性収縮(筋攣縮が肉眼で確認可能)、筋痙攣もみられます。下位運動ニューロン徴候は、上記の通り針筋電図所見でも代用できます。

④以下の鑑別診断で挙げられた疾患のいずれでもない。

1.(1)脳幹・脊髄疾患:腫瘍、多発性硬化症、頸椎症、後縦靭帯骨化症など。
2.(2)末梢神経疾患:多巣性運動ニューロパチー、遺伝性ニューロパチーなど。
3.(3)筋疾患:筋ジストロフィー、多発筋炎など。
4.(4)下位運動ニューロン障害のみを示す変性疾患:脊髄性進行性筋萎縮症など。
5.(5)上位運動ニューロン障害のみを示す変性疾患:原発性側索硬化症など。


治療

根治的治療は現在のところありませんが、以下のように病状の進行を遅らせる薬剤があります。

① リルゾール
グルタミン酸拮抗作用により神経細胞の興奮毒性を抑制します。ALS患者では髄液中のグルタミン酸濃度が上昇しており、過剰なグルタミン酸が神経細胞に障害をきたすといわれております。リルゾールはこのグルタミン酸による神経細胞傷害を抑制し、ALSの病態進行を遅らせます。

② エダラボン
ALSでは、フリーラジカルが神経細胞に影響を与えているといわれており、エダラボンによるフリーラジカル消去作用で酸化ストレスを軽減し、神経細胞の障害を抑制することでALSの病態進行を遅らせます。

③ メコバラミン製剤
神経変性を修復することなどによりALSの病態進行を遅らせます。


ALSは根治的治療がなく、予防方法もないためALSと診断されてしまうと進行性の疾患であるため不安はかなり大きいと思われます。また、進行期まで認知面はしっかりしていることもあり自分自身で動けないことや呼吸苦などが、精神的なストレスが大きくメンタル面のケアも必要になります。

薬物治療など医療的介入で病気の進行を少しでも遅らせつつ、症状を軽減したり、リハビリテーションを実施し、苦痛が緩和された生活が送れるように患者様の過ごされる環境整備も必要になります。

ALSの初期症状からなかなかALSを疑うことも難しい症例も多く、診断が遅れてALS症状に対する対応が遅れがちになることが少なくありません。

当院は、脳神経内科医師が在籍しておりますのでALSの診断などにお役に立てると思います。ご不安な点がございましたら遠慮なくお問い合わせください。




いなざわ駅前内科クリニックでは、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病をはじめ、頭痛、脳卒中、パーキンソン病、認知症、てんかんなどの脳神経疾患、不眠症、うつ病、適応障害、アルコール依存症、不安症、強迫性障害などの精神疾患・メンタルヘルスの問題に対応しております。一宮市、名古屋市、稲沢市、岐阜市、清須市、岩倉市、津島市、愛西市、あま市、北名古屋市など、幅広い地域から多くの患者様にご来院いただいております。稲沢市で内科・脳神経内科・心療内科・精神科をお探しの方は、いなざわ駅前内科クリニックへお気軽にご相談ください。