基礎知識

Disease Basics
診療案内

長期の多量飲酒により生じるウェルニッケ脳症とは?

長期にわたり食事もほとんど摂らず多量に飲酒を続けていると体の中のビタミンB1(チアミン)の不足を招きます。ビタミンB1は食物から摂取されるため、食物の摂取量が少なければビタミンB1欠乏を招きます。
アルコール依存症の人は、食物の摂取が少ないことに加え、アルコールによって消化管からのビタミンB1吸収がうまくできない傾向があります。さらに、アルコールを分解するためにビタミンB1が消費され、ますますビタミンB1欠乏が悪化してしまいます。アルコール依存症の人以外でも、ビタミンB1の欠乏は、妊娠悪阻、極度な偏食、癌、消化管疾患などでも生じます。
ビタミンB1は、細胞内でブドウ糖を分解してエネルギーを生成するうえで必要な栄養素で、特に脳細胞はエネルギー源としてブドウ糖だけを利用しており、ビタミンB1の欠乏は脳に致命的な障害を引き起こします。ビタミンB1の不足により、脳幹部など脳の深部にある部位に障害をもたらし、意識障害、眼振を伴う眼球運動障害、歩行時のふらつきなど運動失調などの症状が生じ、この脳神経障害をウェルニッケ脳症といいます。早期に適切な治療がされなければ、ウェルニッケ脳症の半数以上の割合で記銘力障害や失見当識、作話を特徴とするコルサコフ症候群が生じてしまいます。コルサコフ症候群になると回復は困難であるため、早期診断、早期治療が大切です。

ウェルニッケ脳症の症状
① 意識障害:錯乱状態が時折みられて、見当識障害、無関心、注意力低下、傾眠傾向、昏迷などがあります。重症化すると昏迷から昏睡へと進行し,さらには死に至ることもあります。

② 眼球運動障害:水平および垂直眼振と部分的眼筋麻痺など眼球運動の異常がみられます。 瞳孔の異常がみられることもあります。

③ 小脳性運動失調:小脳の機能障害のために身体の正確な動きができなくなる運動失調のため、歩幅は狭く開脚歩行を特徴とした歩行障害が生じます。
上記の3つの症状が同時にみられることは少なく、多くの方は、3つのうち1つまたは2つの症状がみられます。

ウェルニッケ脳症の検査、診断
診断には病歴と診察上の神経所見が重要になり、病歴からビタミンB1欠乏の可能性を推測し、上記の特徴的な3つの症状のいずれかを診察で見つけることが診断の手がかりになります。血液検査によりビタミンB1の欠乏が証明されれば、診断が確定しますが、ビタミンB1の結果がでるまでに数日間の時間を要すため、早期治療をしないと先ほど述べたように回復困難な記銘力障害や失見当識、作話を特徴とするコルサコフ症候群に移行し、後遺症が生じたり、最悪な場合は死に至ることもありますのでいかに早くウェルニッケ脳症に気づけるかがポイントになります。
頭部MRI画像を撮影すると、第三脳室周囲、中脳水道周囲、乳頭体、視床内側に左右対称に異常所見がみられ、ウェルニッケ脳症に特徴的な所見とされており、確定診断に役立ちますが、ウェルニッケ脳症を疑っていないと見逃されることも少なくありません。 ただ、神経症状の他の病因を除外するために血糖、肝機能検査、動脈血ガス検査、薬毒物スクリーニングなどの臨床検査は施行したほうが良いと思われます。

ウェルニッケ脳症の治療法
ウェルニッケ脳症の原因はビタミンB1の欠乏のため、治療法はビタミンB1の大量投与です。はじめの2日間は500 mg×3/日,その後5日間は250 mg/日を静注し,投与する際は他のビタミンB群も投与することが推奨されていています。経口投与は体内吸収が不安定なため推奨されていません。(参照文献:Cook CC, et al.:Alcohol Alcohol. 1998;33(4):317—336.(PMID:9719389)) 成人のビタミンB1の体内貯蔵量は25~30mgと考えられており、余った分は尿で排泄されるので、過剰摂取による副作用の心配はあまりありません。
ウェルニッケ脳症は治療開始が遅れるとコルサコフ症候群を発症するため、早期発見・早期治療が非常に重要です。そのため診断の確定を待たず、ウェルニッケ脳症が疑われた時点でビタミンB1の投与を開始します。

ウェルニッケ脳症の3大症状として①意識障害,②眼球運動障害,③運動失調がありますが、すべてが揃うのは1/3程度のためウェルニッケ脳症が疑われもせず、 80%は初診時に見逃されているのが現実です。不可逆的な状態となると死亡率は20%程度と高く,救命できたとしてもコルサコフ症候群などの神経障害は60%以上に残存してしまいます。
診断が確定できるビタミンB1の血液検査は結果が出るまで数日かかるので、その結果を待っていると治療開始が遅れますので早期発見には、専門医による細かな問診や丁寧な診察によって症状を正確に把握することが最も大切です。
当院は、脳神経内科医師が在籍しておりますのでご不安な点がございましたら遠慮なくお問い合わせください。




いなざわ駅前内科クリニックでは、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病をはじめ、頭痛、脳卒中、パーキンソン病、認知症、てんかんなどの脳神経疾患、不眠症、うつ病、適応障害、アルコール依存症、不安症、強迫性障害などの精神疾患・メンタルヘルスの問題に対応しております。一宮市、名古屋市、稲沢市、岐阜市、清須市、岩倉市、津島市、愛西市、あま市、北名古屋市など、幅広い地域から多くの患者様にご来院いただいております。稲沢市で内科・脳神経内科・心療内科・精神科をお探しの方は、いなざわ駅前内科クリニックへお気軽にご相談ください。