多発性硬化症は、再発・ 寛解 を繰り返しながら慢性的に進行しますので早期の再発予防の治療が重要です。
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多発性硬化症とは、中枢神経(脳や脊髄)に多発性に脱髄が起こる疾患で、脳や脊髄、視神経に多発性に病変が現れること、再発と寛解を繰り返すことを特徴としています。
脳からの電気信号は、軸索と呼ばれる神経の長く伸びた突起を介して伝達されます。神経には、軸索が髄鞘で覆われているものがあり、髄鞘の役割は神経の電気信号をスムーズに伝えることです。この髄鞘が障害を受ける病気のことを脱髄疾患と言い、神経の電気信号の伝導速度が遅くなり色々な症状が生じます。
【原因】
免疫機能の異常によって起こる病気だと考えられています。免疫機能は細菌やウイルスなどの外敵を攻撃して身体を守ってくれるものですが、異常が起こると、自分の身体を攻撃してしまうことがあり、このような病気を自己免疫疾患と言います。
免疫機能の異常により中枢神経(脳・脊髄)や視神経に炎症を起こして、神経組織を障害する自己免疫疾患だと考えられています。自己免疫疾患とは、本来、外敵から自分を守るための免疫機能に異常が生じ、自分の体の一部を外敵と見なして攻撃してしまうことによって生じます。多発性硬化症は、神経細胞の突起(軸索)を覆っている髄鞘が主な標的となり、その結果、髄鞘が壊され、神経からの命令が伝わりにくくなる疾患です。
【症状】
脱髄が起こる部位によって異なるため、患者様によって色々あります。
①感覚障害
触った感触や温度の感覚が鈍くなる、逆に過敏になる。痛みやしびれ感など、異常な感覚が生じる。
発熱、入浴、運動などにより体温が上がると、それまでにこの病気であったしびれ感などの症状が一時的に悪化することがあります(ウートフ徴候)。また、頚部を前屈すると肩から背中にかけて放散する電撃痛を生じることがあります(レルミッテ徴候)。
②運動障害
手足に力が入りにくい。片側の顔の筋肉が動かない(顔面麻痺)。
③構音障害 嚥下障害
ものが飲み込みにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。
④目の障害
霧がかかったようになり見えにくくなったり、視力が急に低下したり、視野が狭くなることもあります。ものが二重に見えることもあります(複視)。
⑤排尿障害
尿の回数が頻回になったり、失禁したりする。尿が出にくいこともあります。
⑥認知・精神障害
理解力の低下、物忘れ、気分の高揚、うつ状態などがあります。
【検査】
・MRI画像検査
多発性硬化症の診断に最も重要な検査です。この検査では、多発性硬化症の病巣はT2強調画像およびフレア画像で白くうつります。また、急性期の病変はガドリニウムという造影剤を注射すると、造影剤が漏れ出てT1強調画像で白くうつることがあります。
・髄液検査
腰椎の隙間から脳や脊髄を浸している髄液という液体を採取します。急性期の多発性硬化症では蛋白質の増加、 免疫グロブリン IgGの上昇、オリゴクローナルIgGバンドの出現など免疫反応 亢進 を示した所見がみられます。また髄鞘の破壊で生じる髄鞘の成分であるミエリン塩基性蛋白の増加がみられます。
・誘発電位検査
多発性硬化症ではMRI画像で描出されない潜在性病変の検出に誘発電位検査が有用です。視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、運動誘発電位が測定され、複数の誘発電位検査を組み合わせることで多発性硬化症の病変の空間的多発性の証明に役立つことがあります。
診断 以下の①と②を満たすこと
①空間的な多発性は、下記のいずれかを満たすことが必要です。
・異なる領域による2つの臨床症状
・MRIにおいて特徴的な領域(脳室周囲・皮質直下・テント下・脊髄)の2領域以上に1つ以上の無症候性のT2病変
②時間的な多発性は、下記のいずれかを満たすことが必要です。
・1ヶ月以上の間隔をおいた2つの臨床症状
・発症時(初回)のMRIと比較して、再検したMRIで新たなT2病変の確認
・発症時(初回)のMRIで2つ以上のT2病変があり、1つ以上の造影病変と1つ以上の非造影病変。
治療
急性期の治療はステロイドパルス療法という、炎症を抑える副腎皮質ホルモン剤を比較的大量に短期間投与する治療が行われます。通常3日間の点滴を行います。症状の改善がみられない場合、この治療を繰り返したり、 血漿浄化療法 という治療を行ったりすることがあります。
ステロイドパルス療法後に経口ステロイドを投与する場合は、概ね2週間を超えないようにすることがすすめられています。糖尿病や 易感染性 、肥満、消化器の潰瘍、骨粗鬆症、大腿骨頭 壊死 などの副作用が出現する危険性があるからです。リハビリテーションを並行して行うこともあります。
対症療法として有痛性強直性痙攣に対しカルバマゼピンを、手足の突っ張り(痙縮)に対してはバクロフェンなどの抗痙縮薬、排尿障害に対しては抗コリン薬など適切な薬剤を服用します。
多発性硬化症の再発予防には、自己注射薬として、インターフェロンβ-1b、インターフェロンβ-1a、グラチラマー酢酸塩、オファツムマブ、4~7週に一回の点滴薬としてナタリズマブ、内服薬としてフィンゴリモド、フマル酸ジメチル、シポニモドなどがあります。どの治療薬を選択するかは患者様の病状や生活様式、副作用などを総合的に考慮して決めます。
気になることがある方は、脳神経内科医の在籍する当院にご遠慮なくお問い合わせください。